『子どもの悲しみの世界――対象喪失という病理』
森省二著 ちくま学芸文庫

タイトルにあるように対象を喪失した病理の諸相を、著者が治療したケースや文学作品で解説したもの。対象喪失と言えば実親の喪失を思い浮かべるが、ペットやぬいぐるみ、自分の身体の一部も含む。極端なことを言えば生まれるという体験も子宮からの対象喪失と言える。

対象喪失が乳児期に起こるとどうなるか、複数の対象喪失の場合、対象喪失と悲哀の儀式、親子関係と対象喪失などの解説ののち、対象喪失によって子どもは不登校におちいったり、乱暴やいたずら、いじめ、心因性の症状など、その病理を開設する。それぞれに文学作品を紹介してくれるので、それも興味深い。

たとえば、対象喪失による怠学については「ピノキオ」、対象喪失による乱暴やいたずらでは「次郎物語」、心因性のものについては「まぼろしのトマシーナ」、対象喪失と歩行障害やヒステリーについては「秘密の花園」、劣等感や身体欠損については「すずの兵隊」などなど。

要保護児童は実親、友達、地域、持ち物など対象喪失には事欠かないと言っていいだろう。そうした対象喪失が年齢によって影響の出方が違うこと、また心的な過程(絶望や悲嘆から離脱へと向かっていく)を理解しておくことは里親にとっても必要なことと言える。(木ノ内)









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