セクシャルマイノリティと里親
映画「チョコレートドーナツ」の試写会のあと、シンポジウムを行った。私の発言要旨。(2014.4.3.)
木ノ内と申します。全国里親会の役員をやっています。
 私自身も里親ですが、年齢的なこともあって子どもの養育そのものよりは里親家庭の支援の方に回っていきたいと、NPO法人で千葉県里親家庭支援センターと言うものを作って活動しています。
 里親、あるいは里親支援者としてセクシャルマイノリティの人たちと関わってきましたが、こういう人は少ないと思います。簡単にいきさつをお話しますと、私が里親だと言うと、学生や若い人から「里親家庭や里親制度に興味があるが、どうしたらいいでしょう」と言う相談を持ち掛けられて、そういう人と一緒に『里親の学校』を作って、3年ほど前から活動をしています。
 その勉強会であるメンバーから「セクシャルマイノリティの人たちが家族を作りたいと言う声があるんだけど、そういうテーマで勉強会をやってみませんか」と提案があって、開いたら意外にも多くのセクシャルマイノリティの方々が参加されたんです。そういうなか、参加してくれていた藤めぐみさんは「LGBTと家族」をテーマにした団体RFC(レインボーフォスターケア)を作っていきました。藤さんは、昨年の9月に大阪で開かれたIFCO世界大会(社会的養護の世界大会)でもLGBTと里親・養子縁組をテーマにした分科会をやりました。海外の世界大会では「LGBTと家族」をテーマにした、いわゆるセクシャルマイノリティと里親や養子縁組の話は珍しくないんですが、日本では初めてのことで、画期的なことでした。
 この映画にあるように、欧米ではLGBTへの弾圧があからさまに行われていたようです。特に1960年代、70年代ごろ。キリスト教会などの影響かと思います。日本ではどうなんでしょう。里親の認定については、LGBTへの理解が進んでいないこともありますが、認定作業を行う児童相談所もいま一つピンときていないのが現状だろうと思います。見た目の要件を満たしていれば反対できない、と言う感じです。「見た目の要件」とは、里親は独身でもなることができます。祖父母とか補助者がいれば認定される。
 ゲイのカップル、あるいはレズビアンのカップルが里親申請をする、と言うような正面突破の段階はまだ事例が少ないと思います。補助者がいれば里親登録が可能だという判断だろうと思います。
 欧米では、レズビアンカップルやゲイのカップルが里親になって養育する子どもに害はないか、性的に影響されないか。そういう研究をして、きちんとエビデンスを明確にして取り組んでいることを思うと、日本ではずいぶんいい加減と言う感じがします。
 昨日報道されていましたが、性同一性障害で婚姻関係にある夫婦に、はじめて特別養子縁組が認められました。まだニュースバリューがある、非常に珍しいと言った段階です。私など、トランスジェンダーで手術をした人は婚姻ができるわけですから、特別養子縁組も当然ではないかと思っていましたけど。
 映画『チョコレートドーナツ』で気になるのが、障害を持った子どもの里親養育の問題です。私が里親になって児童相談所を訪問した時、職員に心理判定員と言う専門職の人がいました。その人が乳児院に居る赤ちゃんを1歳過ぎまで看て、障害がないようだったら里親に委託すると言うのです。障害を持った子どもは里親に委託しない、と言う方針でした。最近まで続けている自治体もあって、障害者団体から「障害を持った子は一生家庭生活はできないのか」と追及されていました。こうなると人権上の問題になります。
 ご存じかどうか分かりませんが、日本のこうした保護を必要とする子どもの9割近くは施設で暮らしています。ところが最近では、障害を持った子どもは児童養護施設では集団生活ができにくいので里親に養育してほしいという流れができつつあります。里親支援が声だかに言われている割にはまだまだ子どもの養育が里親に丸投げされている状況ですから、単純に喜ぶことはできません。
 もう一つ言いたいのは、制度と言うのはどうしても柔軟性に欠けると言うことです。欧米には、子どもが信頼している大人に「私の里親になってください」と言う仕組みがあります。日本では原則として、子どもを知らない里親と、里親を知らない子どもが、行政のマッチングと言う方法で里親家庭を作っていく。その結果、うまくいかないケースも多いんです。制度から多少はみ出しても、うまくいくようなケースなら追認するような柔軟性があってもいいと思います。
 たとえば、3年前に東日本大震災の被災地を回って、孤児が近隣の家庭に保護されているらしいと知って、その時に厚生労働省に「近隣里親」と言う里親制度を作ってほしいとお願いした時に感じました。子どもが信頼できる大人の家で暮らしていくことができる仕組みができないものかと。結局、難しいと言われてしまいましたが、欧米では地域里親として制度的にもあるんです。
 地域に住んでいる人、この映画のように同じアパートに住んでいる人、そういう身近な人が特定の子どもの里親になるのがむしろ自然だと思います。今のように、親子分離をして、子どもの唯一の財産である地域や人間関係から無理に引き離すべきではないと思います。
 「チョコレートドーナツ」は、いろいろなことを考えさせてくれる映画です。性の自己決定についてはセクシャルライツと言う考え方があります。これは最後にやってきた人権だと言われています。私たちはあらゆる人権の擁護に向かっていかなければ、と思っています。里親の役割としては子どもの権利の擁護が課題ですが、里親仲間で議論をしていて「里親は子どもの権利を守る」でいいじゃないか、という意見が多勢を占めました。権利は守るだけのものではなくて、生きづらさがどこから来るのか、それを見出しながら日々人権としての権利を拡大させていく必要があります。
 LGBTの人たちも、単に当事者が声を上げるだけではなくて、それを支援する人の輪が広がっていく必要があると思っています。


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